大腿ヘルニアとはどんな病気?

病気の中には、「ヘルニア」という疾患の考え方があります。このヘルニアで有名なものは、腰椎ヘルニア、鼠径ヘルニアがありますが、これらの他に、脳ヘルニア、食道裂孔ヘルニアなど発生する場所ごとに様々な名前のヘルニアという病気があります。

 

このヘルニア、というのは何かというと、臓器がどこかに飛び出して嵌まり込む、という意味です。

 

ドラえもんに出てくる公園にあるドラム缶の中に入り込んで抜けられなくなるイメージで考えると少しわかりやすいかもしれません。

 

基本的にヘルニアというのは、内臓の一部がヘルニア門という穴を通して脱出する病気のことをヘルニアといいます。

 

では、大腿ヘルニアはどこに何が飛び出すでしょうか。

 

大腿ヘルニアを理解するためには、まず鼠径部(太ももの場所)の簡単な解剖学的知識があるとわかりやすいです。

 

鼠径部は股の部分で内側を恥骨側、外側を腸骨側といいます。例えば右側で説明すると、内側から順番に、大腿静脈、大腿動脈という2本の太い血管が並び、大腿神経、腸骨筋という筋肉が並びます。

 

手を当てると「トクトク」と脈を触れるところがありますが、これが大腿動脈です。この内側に大腿静脈という静脈があります。

 

この大腿静脈のさらに内側に大腿輪という穴があり、ここから本来ないはずの、本当は腹腔内(おなかのなか)にある臓器がお腹のそとに出てしまう病気を大腿ヘルニアといいます。

 

ヘルニア内容(飛び出す物)は小腸や、大網(腸管をカバーする脂肪で出来た網のような臓器)、卵巣、膀胱壁などが多いです。お腹の中の臓器が、太ももに飛び出してくるのです。

 

大腿ヘルニアの原因ですが、前述のように大腿輪の大きさが原因といわれています。しかし、大腿ヘルニアは小児にみられることは極めてまれで、発生のピークは50〜60歳代にあります。

 

すなわち先天的な要因(大腿輪の大きさ)以外に、後天的要素が加わって初めて大腿ヘルニア起こると言われています。

 

男女比は我が国では1:4.5〜8と女性に多いですが、欧米の報告ではそこまでの性差はないようです。日本では女性が多いですが、海外では同じくらいといわれています。

 

 

大腿ヘルニアの症状と診断

ヘルニア門からヘルニア嚢が脱出する事を嵌頓といいます。大腿輪からヘルニア嚢の嵌頓があった場合、そこに腫瘤(ふくらみ)が触れるということを主訴に病院を訪れる事が多いです。

 

太ももに何か変なものが触れる、ということで病院に来られます。

 

この時、診察しても腫瘤(ふくらみ)がはっきりしない場合、立ってもらったり、おなかに力を入れてもらい腹圧がかかったりするとヘルニア嚢が飛び出てきてわかることもありますし、場合によってこの部分が痛むことがあります。

 

そして、嵌頓するヘルニア内容(飛び出した内臓の種類)によって症状が変わります。

 

小腸が飛び出した場合には部分的な痛みが出てきて、重くなると腸閉塞症状といって腸の流れが止まってしまい、腸が膨らみ痛みが出たり、腸の中身が進めなくなって吐いてしまったりします。

 

腸閉塞の症状がなく、部分的な痛みだけの症状だけの時期もあるのですが、特にご高齢の方の場合、痛みの訴えが少ないので原因不明の腸閉塞として診断が困難な症例があります。

 

これが見落とされて診断がつかない場合、小腸の絞扼イレウスで腸管が壊死し、腹膜炎や全身状態の悪化を引き起こして初めて大腿ヘルニアの診断に至る事もあります。

 

大網が嵌頓した場合や絞扼(血流が流れなくなる問題)を伴う急性嵌頓の場合には局所痛、胃部不快感を訴えますが、慢性の場合は無痛性の腫瘤を触知します。

 

近年ではエコー検査による診断も有用です。エコーのカラードプラ(血流の流れをエコーで見るモードです)を使用し、大腿動脈の拍動を見つけます。そしてその内下の大腿静脈を確認し、そのすぐ内側にヘルニアの腫瘤を描出することで大腿ヘルニアの診断をします。

 

 

 

大腿ヘルニアの治療

ヘルニア門が体の深い部分にあるので、手術が唯一の治療法です。

 

しかも前述のようにヘルニア内容が嵌頓すると、小腸イレウスや腹膜炎など重症化する可能性が高いため放置せず早急な治療が必要です。

 

手術術式は鼠径法、McVay法といわれます。

 

内容は鼠径部の皮膚を2〜3cm程度切開します。そして小腸などの内臓が含まれていたヘルニア嚢を帰納し、腹腔内の正常な位置まで戻し、大腿輪というヘルニア門を縫縮し閉じてしまいます。

 

少し外科の専門領域の話になりますが、このとき大腿輪という穴を形成しているcooper靭帯と腹横筋腱膜弓があるのですが、ここをしっかり閉じる事が重要になります。

 

術後の合併症として最も注意すべき点は、大腿動静脈損傷です。ヘルニア門を閉じる手技の最中に壁を補強するのですが、この際に外科医は大腿動脈、大腿静脈が近接しているため損傷しないように注意します。

 

 

大腿ヘルニア術後の経過

基本的には全身麻酔での手術になるので、手術終了直後から病棟に帰ると、1〜2時間ごとに血圧や脈拍をチェックし、翌日まではしっかり全身状態を把握します。

 

腰椎麻酔、局所麻酔での手術の場合は、バイタルサインのチェックはそこまで細かくしない事が多いです。

 

いわゆる消化管の手術ではないので、そこまで脱水になることはありませんので、術後の補液は状態が良ければすぐに経口摂取に切り替えます。嘔気がなければ、術後4時間ほどでは流動食から開始します。

 

そして痛みがひどくなければ、術直後から歩行を開始します。術後すぐに歩行したとしても、ヘルニアの再発の可能性が高くなるというエビデンスはでていません。

 

問題が無ければ5〜7日で退院となり、手術から約1週間後に抜糸をし、通常生活に戻ります。仕事復帰は退院翌日から許可され、肉体労働の場合であっても術後約1ヶ月で許可が出る事が多いです。