閉鎖孔ヘルニアとは

閉鎖孔ヘルニアという病気は、あまり聞き慣れない病名ですが、1724年にArnaud de Ronsilという医師により報告された疾患です。

 

閉鎖孔という場所に腸が飛び出す病気です。

参考:大腿ヘルニアとは?(そもそもヘルニアとはどのような病気か解説しています)

 

症状が続く場合の閉鎖孔ヘルニアでは、ほとんどの方で手術が必要になる病気ですので、このページを見られている方は閉鎖孔ヘルニアという診断をお聞きになった方か、医療関係者の方が殆どですので、症状と手術内容、術後の一般的な経過をお話します。

 

文中で閉鎖孔についても解説しますね!

 

 

閉鎖孔ヘルニアの症状と診断

ヘルニアは大腿部の深いところに突出するので、いわゆる鼠径ヘルニアのように腫瘤として触れる事で病院を受診することは多くありませんし、実際に医師が触診したとしても、閉鎖孔ヘルニアを腫瘤として触知するのは困難です。

 

外からみても分からないので、診断するのが難しい病気です。

 

閉鎖孔ヘルニアはヘルニア門(ヘルニアの穴)が小さく、強靭であるために、いわゆる嵌頓といって臓器が脱出し挟み込まれやすくなっています。

 

嵌頓する臓器は、ほとんどが小腸です。特に回盲部(小腸と大腸の境目の部分です)から100cm以内の回腸(小腸は口側から十二指腸、空腸、回腸と繋がります)が多いです。その他には大網(小腸、大腸をカバーする脂肪の網)、卵巣、卵管、などが含まれます。

 

 

小腸が閉鎖管から嵌頓すると、初期には不完全な腸閉塞が起こり、腹痛、嘔吐などの症状を訴えますが、多くは嵌頓した小腸は自然に帰納してしまい症状は改善します。

 

最終的に閉鎖孔ヘルニアと診断された方の多くは、以前にこのような症状を繰り返していた、というエピソードを持っている事が多いです。

 

このような自然帰納が起こらずに時間が経過すると小腸は完全閉塞し、いわゆるイレウス(腸閉塞)という重症疾患に発展します。

 

一般的にイレウスの原因として閉鎖孔ヘルニアが原因になる事は約0.4%程と非常にまれであり、早期診断がつけられずに単なる腸閉塞として保存的に経過を診てしまうと、絞扼性イレウスという腸閉塞の中でも生命に危険を伴う状態にまで発展してしまいます。

 

また、閉鎖管内には閉鎖神経が走行していますので、ヘルニア嵌頓によって神経が圧迫され、痛みが出現します。

 

この痛みは大腿部を伸展、外転、外旋(延ばしたり外側に向けること)させたり、咳払いをさせると憎悪する、という特徴があり、Howship Romberg signといいます。

 

Howship Romberg signは閉鎖孔ヘルニアの15〜50%にみられるとされています。

 

また、近年、超音波検査、CTスキャンなどの画像診断が診断に有用です。

 

上記のような症状を訴え、医師が閉鎖孔ヘルニアを疑うと、造影CTでは恥骨筋の裏側にリング状に造影される腫瘤がみられ、診断の一助になります。

 

 

閉鎖孔って何?

少し専門的な話題になりますが、まず閉鎖孔の解剖学的な位置に関して理解する必要があります。

 

骨盤の前の恥骨という股の間の骨と、坐骨というおしりの骨との間に閉鎖孔という穴があります。

 

ここには内閉鎖筋、閉鎖膜、外閉鎖筋という筋肉群で覆われています。閉鎖孔の外上方向には閉鎖神経、閉鎖動脈、閉鎖静脈が大腿部に向けて閉鎖膜を貫いて走る穴が開いています。これを閉鎖管といい、その上縁、外縁は恥骨によって、下縁は閉鎖膜によって構成され、斜めに2〜3cmの長さを有します。

 

この閉鎖管を介して、腹腔内の臓器が脱出する疾患を閉鎖孔ヘルニアといいます。

 

原因は後天的なものといわれています。男女比は欧米では1:6〜9と言われていますが、日本では1:24と圧倒的に女性が多くなっています。特に高齢のやせ形の女性に多いとされています。

 

これには理由があり、女性は骨盤腔が広くなっているため元来、閉鎖管が大きい事、高齢化や多産によって骨盤を指示している筋群の組織が弛緩し、閉鎖管が広がる事、体重減少により腹膜の脂肪組織が減少し、閉鎖管が拡大するなどの原因が言われています。

 

閉鎖孔ヘルニアの治療内容

80〜90%と、ほとんどの症例は小腸の嵌頓による腸閉塞の緊急外科手術になります。このため、術前の十分な輸液や、胃管、イレウス管(口から閉塞している小腸にまで管を通す手技)から消化管内容物を吸引し、閉塞している消化管を減圧する必要があります。

 

閉鎖孔ヘルニアと確定診断がつかないまま腸閉塞の手術として開腹手術になることが多いです。

 

麻酔は全身麻酔で、下腹部正中切開により開腹所見を得ます。閉鎖管から腸が脱出している事を確認し、診断が確定すればもとの位置に環納します。

 

ここで腸管を無理矢理、牽引し環納しようとすると消化管穿孔を起こし腹腔内を汚染してしまう危険がありますので外科医は慎重に扱います。

 

 

閉鎖孔ヘルニアの手術後の経過

腸管の損傷具合により経過も異なります。

 

腸管が壊死して、腸切除から吻合手術にまで拡大した場合、しばらく食事はとれませんので約1週間、腸管が開腹するまで点滴で水分栄養を補います。

 

そこまで、重症でなく環納しただけですんだ場合は3日ほどで食事を開始する事が出来ます。

 

食事を開始し、全身状態が良好であれば1〜2週間以内には退院となります。