癌による疼痛や、最近では癌以外の疼痛でも、モルヒネ系の痛み止めが使用される機会が増えてきています。

 

日本では、まだまだ海外に比べてモルヒネ系の薬の使われ方は控えめではあるものの、徐々にこの「痛み」というものに対して使用されるようになってきました。必要な方にモルヒネ系の薬剤を使用してあげられることは良いことですが、一方でもこれらの薬剤は、「便秘」の副作用が問題になります。

 

では、なぜモルヒネで便秘となるのか。それを解説するとともに、便秘への対策方法について解説します。

 

 

 

 

痛みの伝わり方と脳

便秘の解説まで一見遠回りになりますが、大事なことなので、ぜひ目を通してみてください。

 

みなさん、突然ですが「痛み」って何でしょう?

 

…えーと、例えば転んで膝をすりむいたら、そこがヒリヒリして痛みますけど…こういう不快な感覚を「痛み」と呼びますよね。擦り傷だけではなく、お腹が痛いとか、歯が痛いとか、日常生活ではいろいろな痛みがあります。

 

では、この痛みって、どこで感じているのでしょう?

 

…膝を擦りむいたら膝が痛いし、歯が痛い時は…歯が痛みますよね。でも、膝や歯が直接痛がっているのではありません。実際に痛みを感じているのは「脳」なのです。どうやって脳が痛みを感じているのでしょうか?

 

極端な例えになってしまいますが、私たちの体は、脳を載せた乗り物です。体が壊れたら脳は生きていけませんので、体の管理をすることは脳にとって最重要事項。体が怪我をして血が出てしまったら、自然界では一大事なのです。

 

怪我に気づかずに動いてしまい、どんどん出血してしまったら体が壊れてしまいますから。そうなる前に、脳は「痛み」を体に感じてもらって、体の壊れた部分を直してもらうんです。

 

このように、脳は体のすみずみまで監視しなくてはなりません。脳は自分で動けないので、「神経」というコードを張り巡らせて監視を行うと同時に、この神経を通じて体に指令を出したりします。

 

今回は痛みのお話ですので、このコードの中を走る伝令の向きは「体→脳」という方向になります。体で発生した痛みが、電気信号となって神経を通り、脳へと伝わって「痛い!」となるのです。

 

では医療用麻薬はどこに作用するの?

ただ、体から脳への距離はとても長くて、途中で中継地点がいくつかあります。例えば…皮膚を切ったとしましょう。すると、皮膚などに分布している痛みを感知するレセプターが痛みを感じ、痛みを電気信号に変えてから神経のコードに信号を乗せます。

 

この電気信号は神経を進み、そして中継地点:脊髄に入り、そのまま脊髄のコードを上昇して脳にたどり着き、そして脳の細胞へ…という風に信号が伝わって行きます。

 

脳の中にももちろん中継地点があり、脳細胞と神経の間の中継地点には、麻薬と特別な関係を持つレセプターがあります。医学用語で「オピオイド受容体」といいます。

 

医療用麻薬の代表的な薬剤にモルヒネがありますが、モルヒネはオピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮するのです。

 

 

モルヒネは鎮痛作用だけではないの?

便秘の話が近づいていきます。

 

痛みにかかわるオピオイド受容体にはμ(ミュー)、δ(デルタ)、κ(カッパ)の3種類があり、相互に影響しています。モルヒネは主にμ受容体に強く結合します。μ受容体は、鎮痛や鎮静に一番強く作用する受容体です。

 

しかし、μ受容体は、脳内だけにあるわけではありません。上でも述べたように、脳は体を監視するために神経を張り巡らせて情報収集を行っています。

 

しかし、それでは仕事量が多すぎて処理しきれないため、体の要所に支部を作り、支部に仕事の一部を任せています。これを自律神経系といい、例えば腹部には「腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう)」があります。消化管の動きや分泌、痛みなどに関係があります。

 

このお腹の中の自律神経を司っている、腹腔神経叢にもμ受容体が存在します。モルヒネが腹腔神経叢のμ受容体に作用すると、アセチルコリンという神経伝達物質の分泌が抑制され、その結果、消化管運動抑制作用が起こります。

 

消化管の動きが悪くなる=便秘になる、ということです。

 

 

では便秘対策は?

モルヒネのような麻薬を鎮痛剤として使っている患者さんは、やはり癌の患者さんです。癌の痛みは強く、日常生活をふつうに送るためにも鎮痛は大切な治療です。

 

便秘になったから、モルヒネの量を減らそう…では、痛みが出てきてしまい本末転倒な方針ですね。

 

しかも、モルヒネは強力な鎮痛剤である分、副作用も強くでてしまいます。モルヒネの副作用の中でも、特に便秘に関してはほぼ必発(ほとんどの人に出る)です。そのため、モルヒネを飲みだしたら、必ず投与開始から対策を練らなければなりません。

 

緩下剤が一番お手軽で、処方されたら一緒に飲みましょう。緩下剤としてはセンナ、ビサコジル、マグネシウム、ピコスルファートなどがあります。

 

 

・センナはハーブの一種で、飲み薬だけでなく、「センナ茶」として便秘茶としてもよく市販されています。

 

・ビサコジルは直腸粘膜を直接刺激する座薬で、「テレミンソフト」などがあります。

 

・マグネシウムは酸化マグネシウム系便秘薬として古くから医療現場で使われています。「マグラックス」「マグミット」などと商品名も多いです。マグネシウムは便の水分量を増やして便を柔らかくすることで排便をスムーズにする作用があります。腸に直接作用するわけではなく、使いやすいお薬です。

 

・ピコスルファートは「ラキソベロン」という名前で有名な下剤です。大腸を刺激し腸の運動を活発にして排便を促します。効果の発現は7-12時間後です。耐性を生じることが少ないので、飲み薬だけでなくドライシロップなどもあり、子供や高齢者にもよく使われているお薬です。

 

これらの薬剤の他にも、一般的な便秘対策も取り入れるとより効果的です。

 

お水を飲んだり、乳酸菌サプリを飲んだりです。またお腹をマッサージはオピオイド性の便秘に効果があります。

 

また、ハッカ油入りの温湿布タオルをメンタ湿布と言いますが、お湯にハッカ油を垂らし、タオルを浸して絞り、お腹に置くだけで簡単にできるのですが、メンタ湿布を使うと腸の蠕動運動が活発になり、1時間ほどで効果が出ます。お腹が張って苦しい時とか、ガスが溜まっている時などにも良いでしょう。

 

まとめ

以上、モルヒネなどの医療用麻薬を使った場合の便秘の原因と、その対策について分かりやすく解説しました。

 

モルヒネを飲む場合は、早い目の便秘対策がとても大切です。個人差もありますので、どれが効果的なのか自分でいろいろ試してみましょう。