骨盤内炎症性疾患に関して

膣から子宮頸管炎による感染が上行性に波及すると、子宮内膜炎、卵管炎、付属器炎を起こし、骨盤内へ広がり骨盤内腹膜炎を発症します。

 

女性生殖器感染症では、子宮、子宮附属器(卵管、卵巣)、S状結腸、直腸、ダグラス窩(腹腔内の子宮と直腸の間のスペース)、膀胱子宮窩(腹腔内の子宮と膀胱の間のスペース)を含む小骨盤内に発症した感染症を総称して、骨盤内炎症性疾患(PID;pelvic inflammatory disease)と表現します。

 

 

起因菌は、膣や子宮頸管に常在する好気性や嫌気性の一般細菌の頻度が高く、グラム陰性桿菌に属する大腸菌やストレプトコッカス属、スタヒロコッカス属に分類されるグラム陽性球菌が挙げられます。

 

一方で嫌気性菌では、グラム因性桿菌であるバクテロイデス属や陽性球菌であるペプトコッカス属、ペプトストレプトコッカス属が挙げられます。

 

そして近年では、クラミジア感染症、淋菌による骨盤内炎症性疾患が増加しています。クラミジア感染症による骨盤内炎症性疾患では卵管内癒着を併発することにより、若年女性の不妊症の原因になるため早期発見、早期治療が必要になってきます。

 

また、クラミジア感染症からの骨盤内炎症性疾患に続発するFits-Hugh-Curtis症候群に発展すると、肝臓周囲まで感染、炎症は波及し(腹腔内所見ではクモの巣をはったような状態になります)、右上腹部痛を呈するので急性腹症(腹痛で救急受診した際、確定診断が着く前の診断名)で受診した場合は、急性胆嚢炎、尿管結石との鑑別を要します。

 

 

骨盤内炎症性疾患の症状

急性期には、下腹部痛、悪心、嘔吐、悪寒を伴う発熱を認めます。

 

炎症が波及した場合は麻痺性イレウスを起こし、腹部膨満感(おなかが張った感じ)を訴えることもあります。

 

原則として、圧痛(痛みの部分を抑えると抑えた部分の痛みが増強する所見)や筋性防御(腹膜の炎症で腹部の筋肉が板のように堅くなる状態)などの腹膜刺激症状を伴いますが、病変の範囲が狭い場合はこれを欠くこともあります。

 

慢性化(長期化)するとこれらの症状はいずれも軽快しますが、下腹部の違和感や腰痛は残ります。また、ダグラス窩膿瘍によって下痢や便秘等の直腸刺激症状を訴えることもあります。

 

 

骨盤内炎症性疾患の検査、診断

骨盤内炎症性疾患の診断基準は、下腹部痛や下腹部の圧痛、内診による子宮附属器および周囲の圧痛、38度以上の発熱、血液検査での白血球数の増加(10000/ml以上)、ダグラス窩穿刺による膿汁の吸引、腹腔鏡あるいは開腹所見による病巣の確認などが挙げられます。

 

しかし、子宮附属器炎、卵管膿瘍、骨盤腹膜炎を鑑別することは難しく、骨盤内炎症性疾患として臨床的に判断されることが多いです。

 

骨盤内炎症性疾患では、卵管水腫や卵管膿瘍などの器質疾患を併発していない場合は、いわゆるエコーやCT、MRIなどの画像所見では明確な特徴がありません。

 

 

骨盤内炎症性疾患の治療に関して

軽症であれば、経口抗菌薬により外来治療が可能です。しかし重症例やFits-Hugh-Curtis症候群をおこしてしまうと、他の外科疾患との鑑別を要するため入院管理になります。

 

卵管水腫や骨盤内膿瘍を形成した症例は、抗菌薬による保存治療の効果が乏しく再発するため、病巣切除術やドレナージ排泄術を考慮します。

 

使用する抗生剤は、一般細菌が原因菌であれば好気性グラム陰性桿菌、グラム陽性球菌、嫌気性菌に感受性を持つセフェム系抗菌薬の経口投与を第一選択とし、重症例では入院管理により静脈点滴での抗生剤投与を行います。

 

クラミジアによる骨盤内炎症性疾患は、マクロライド系やニューキノロン系の経口投与が有効ですが、腹膜炎を併発している症例ではミノマイシンやマクロライド系の注射を行います。